熊本地方裁判所 昭和37年(ワ)86号 判決 1963年10月29日
原告 国
指定代理人 山口常義 外四名
被告 有限会社 熊本石灰樋島工業所
主文
被告は原告に対し金百四拾八万四千九百六円を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする
事 実 <省略>
理由
まず、原告主張の如き石炭販売代金残があつたかどうかについて判断する。成立について争なく、被告が原告に対して石炭代金債務額を確認したことを記載された甲第二、三号証とその記載内容が符合するので、その記載の全部を信用し得る甲第一号証によれば、旧配炭公団は被告に対し、昭和二四年四月末現在において、石炭販売代金債権百七十五万千九百二十五円を有していたことを認めることができるし、この認定を左右するような証拠はない。
次に、右石炭代金については、支払を怠つたとき延滞金として日歩五銭を支払うことになつていたかどうかについて考える。
当時施行されていた物価統制令第四条の規定に基く物価庁告示第三百四十九号中に「所定支払日に炭代の支払がない場合は、買主は日歩五銭の延滞金利を支払うものとする」と定められていたことは昭和二三年六月二十三日付の官報に掲載されている右告示の記載によつて明らかである。この告示の遅延損害金の定めは法令としての効力を有するとは解せられないが、当時主務官庁の監督下に業務を行つていた同公団は、すべての取引先と一般に右販売条件に従つて取引をなし、これによらない売買取引の申出があつてもこれには応じなかつたと認められ、当時右公団と取引をしようとする者は、その販売条件が合理的である限り当該条件の内容の詳細を知悉していない場合でも右公団の依拠する販売条件に従う意志を以て契約をしたものと推定すべきところ、右遅延損害金に関する販売条件の定は債務の履行を確保し不履行による損害の補顛をはかるためのものとして妥当なものと思われるし、かつ本件取引に際し、特に右販売条件によらない旨の特段の意思表示があつたとも認められない本件においては、同公団と被告との間の本件売買も右告示に示された遅延損害金の定による意志を以てなされたものと推認すべく、被告が当時右告示のあることを知らず又は特にこれによる意志を明示しなかつたという理由で、右条件が契約内容をなしていたことを否認することはできない。而して石炭代金の支払期について特段の定めのあることの認められない本件取引においては、その支払期は石炭の引渡と同時とみるべきであるから、被告としては、おそくとも昭和二十四年五月一日以降は前記石炭代金に対する日歩五銭の割合による遅延損害金支払義務があることとなる。
よつて進んで被告の抗弁について判断する。
まず被告は本件石炭代金債務については昭和二十六年六月十九日、更改契約がなされたと主張するが、その事実を認めるに足るような証拠はない。成立に争のない甲第三号証は債務確認書であつて、日歩五銭の延滞金を支私う旨の記載があるが、同証は原、被告間における債権債務関係を明確ならしめるために被告より差入れられたものとは認められるけれども、このために従前の債務につき更改がなされたと認めることはできない。よつてこの点の抗弁は採用するに由ないものである。
次に本件延滞金債務は免除されたとの抗弁について考えるに、これ亦、右免除の事実を認め得るような証拠は何もない。成立に争ない乙第一号証によつては到底右の事実を認めることはできない。又仮りに原告が被告主張のように調停において実質的には連帯保証人に対して延滞金支払義務を免除したものとしても、それ故、その免除の効果が主債務者たる被告にも及ぶものとは解せられない。このようなわけでこの点の被告の抗弁も亦理由がない。
以上説明したとおりであるから、被告は原告に対して、別紙明細表のとおりの計算の結果、延滞金残百四十八万四千九百六円を支払う義務があるわけであり、この支払を求める原告の本訴請求は理由があるので認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 平岡三春)